大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和37年(ヨ)4361号 判決 1963年3月12日

債権者 吉田進

債務者 小林包次

主文

債務者は債権者が保証として金三十万円を五日以内に供託するときは債権者に対し昭和三十八年三月二十六日限り別紙目録<省略>第二記載の建物を収去して同目録第一記載の土地を仮りに明け渡せ。

訴訟費用は債務者の負担とする。

事実

債権者訴訟代理人は、「債務者は債権者に対し別紙目録第二記載の建物を収去して同目録第一記載の土地を明け渡せ。」との判決を求め、その申請の理由として、

一、別紙目録第一記載の土地(以下本件土地という)は、もと申請外西貝芳松の所有するところであつたが、債務者は、昭和二十年暮頃、同人に無断で、右地上に別紙目録第二記載の建物(以下本件建物という)を建築所有し、かつこれに居住することによつて本件土地を不法に占有した。

二、債権者は、昭和二十一年十月八日、右西貝から本件土地を譲り受けてその所有権を取得し、昭和三十五年八月、仲介者である申請外米山四郎の手を経て本件土地を含む附近一帯六十坪を申請外東京建物株式会社(以下東京建物という)に売却し、同年十一月頃、東京都田無町に約二十三坪の代替地を求めてこれを債務者に贈与することゝして債務者から本件土地の明渡を受けることの承諾を得たので、右米山をして土地明渡時期の交渉に当らせたところ、債務者は前言をひるがえして多額の金員を要求して土地の明渡を拒否するに至つた。

三、そこで、債権者は、昭和三十五年十二月、豊島簡易裁判所に対し、債務者を被告として建物収去土地明渡の本訴を提起し、昭和三十七年五月二十九日、全部勝訴の判決を得たが、債務者はこれを不服として東京地方裁判所に控訴を提起し、目下同庁において審理中である。しかし債務者はたゞ判決の確定をひきのばすためにだけ上訴したものであるから債権者の勝訴が確定するまでにはなお相当の日時を要する見込であり、東京建物からは契約を解除した上損害賠償を請求する旨の申入を受けているので、いつ契約を解除されるか分らず、もしそのようなことがあれば債権者は既に受領ずみの手附金の倍額の金四百万円の約定の損害金を支払わなければならず、債権者は資産もなく著しい損害を蒙ることゝなるのでその損害を避けるため本件申請に及んだ。

と述べた。<立証省略>

債務者訴訟代理人は、「本件申請を却下する。」との判決を求め、答弁として、

一、債務者が本件土地に債権者主張の建物を建築所有していること、本件土地の前主が申請外西貝芳松であつたこと、債権者主張のとおり本訴が係属していることは認めるが、その余は争う。本件土地は申請外米山、東京建物へと順次譲渡され債権者は実質上の所有者ではない。

と述べ、仮定抗弁として、

債務者は前主西貝から本件土地を都知事の認可賃料を賃料として借り受け、その地上に登記してある本件建物を所有しているから右借地権をもつて債権者に対抗することができる。

と述べた。<立証省略>

理由

債務者が本件土地に本件建物(本件建物の写真であることに争のない甲第三号証参照)を建築所有していることは当事者間に争がない。

そこで、債権者の被保全権利について考えるに、

債務者は債権者の土地所有権を否認するが、成立に争のない甲第一、第二、第七号証によれば本件土地は債権者の所有に属することが疎明され、右認定を左右する証拠はない。

次に、債務者は借地権を主張するが、右事実を認めるに足る疎明はなく、却つて成立に争のない甲第六、第七号証によれば債務者はなんらの権原なく本件土地を不法に占拠しているものであることが疎明される。

そこで本件仮処分の必要性についてみるに、成立に争のない甲第九号証、証人金沢良平の証言によつて真正に成立したと認められる甲第十号証の一ないし三、証人金沢良平の証言ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、債権者はその所有にかゝる本件土地を銀行から用地の調達を依頼されていた申請外東京建物に売り渡すことゝし、その仲介を申請外米山に委任し、同人の名において契約することを許容し、その結果甲第九号証の契約が締結されたが、債務者は本件土地を不法に占拠して明渡に応じない(不法に占拠していることは前段認定のとおりである)ために、債権者は残代金七百七万円余の支払を受けられないことはもとより、東京建物が当初の引渡期日が過ぎて既に久しいけれども係争中であることを考慮して依頼銀行に猶予を求めてはいるものの、今なお引渡を受けられないため最早猶予はできないとして東京建物から右売買契約を解除される虞が強く、そうなつたときは債権者は既に受領ずみの手附金の倍額の金四百万円の約定の損害金の支払を余議なくされることゝなることが疎明される。この事実は、債権者がこれによつて著しい財産上の損害を蒙るものといわなければならない。

以上の次第で債権者の有する被保全権利とその権利の実現が遅延することによつて、蒙る損害とを併せ考えるとき債権者の本件仮処分申請は主文記載の限度において正当としてこれを認容することができる。よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田中良二 土屋一英 友納治夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例